コミュニティ・ファシリテーターの役割
コミュニティの危機
活性化していない組織・グループ・コミュニティには、次の3つの段階があります。衝突が表面化していない「緊張状態」、そして争いが起こっている「コンフリクト状態」、そしてその2つの状態が長期にわたり繰り返されたり、意見が無視され続けたりした結果おこる「無気力状態」です。
コミュニティの危機として目に見えてわかりやすいのが2つ目のコンフリクト状態です。そのため、コンフリクトマネジメントといったスキルが発達してきました。一方、緊張状態や無気力状態は、目に見えた衝突がないため、コミュニティの問題ととらえられにくく無視されやすくなります。主に抑圧を感じている側や失望を感じている側の立場の人には認識されますが、その状態による不利益を受けていない側の立場の人はなかなか認識する事ができません。しかし、このような緊張状態も無気力状態も、コミュニティの危機としてかわりはありません。
開き合うことのサポートでコミュニティの変容が生まれる
コミュニティ・ファシリテーターは、コミュニティの状態に応じて意見の整理をしたり、声をきいたりと、臨機応変な姿勢が必要ですが、基本姿勢としてコミュニティの状態に関係なくコミュニティにある「さまざまな思い」が共有されるように働きかけます。
しかし声を上げること、心を開くことができない人がいたり、自分と異なる立場の人の意見に混乱してしまう人がいたりします。そのすべてをサポートするのがコミュニティ・ファシリテーターです。コミュニティ・ファシリテーターは、あらゆる思いに意味がある事だと信じています。「少数派の思い」、「攻撃的な思い」、「一般的にネガティブに受け止められがちな思い」、「なかなか言い出せなくて心の中にしまわれている思い」、「自覚されていない思い」、すべての多様な思いを尊重し、歓迎します。
こうしてすべての思いが共有されるということは、心が開き合うことを意味します。心を開き互いの思いを伝え、痛みを共感し希望を共有しつながり合うことで、場に変容が起こります。
葛藤や衝突は場の変容の始まり
さまざまな思いが場で展開される過程では、場にいる人の心の中や場に葛藤や衝突が起こります。通常、それらはネガティブなことととらえられ、「臭いものには蓋をしろ」という対処がなされがちです。その場合、抑圧や失望を感じている側の立場の人がより抑圧され、組織・グループ・コミュニティにおいて紛糾や破綻、分裂、崩壊といった現象を引き起こしていきます。
一方、コミュニティ・ファシリテーターは葛藤や衝突も含めたすべてに意味があるととらえ、勇気をもってそれらに取り組みます。なぜなら、争いや問題は場の変容の始まりであり、それらを通してすべての声が共有され受け容れられたときに場が変容することを知っているからです。
自分が争いによって脅かされることになると思っている人は、たとえ変容が起こるとわかっても争いに取り組むことは困難でしょう。そのような場面で場の安全を確保することも、コミュニティ・ファシリテーターの重要な役割になります。
しかし同時に、コミュニティ・ファシリテーター自身が、その争いの炎に焼かれる可能性がもっとも高い存在かもしれません。なぜならある立場の声を出すよう促せば反対の立場の人は危険を感じ、ある立場の人の安全を守ろうとすれば反対の立場の声が抑圧されたように感じ、あらゆる声を大切にしようとすることでいずれかの立場からの攻撃も危険が高まるからです。ましてやコミュニティ・ファシリテーターとしてあらゆる声を歓迎すればするほど、上記のような不満や要求としてファシリテーターへの攻撃が起こりやすくなるでしょう。
そのためコミュニティ・ファシリテーターには、争いの炎に焼かれながらもなお、自分を見失わず注意力を働かせ、その炎の中に立ち続けながら場を支え、起こってくることを展開する力が求められるのです。その力の礎が、エルダーシップであり、プロセスアプローチであり、日々のトレーニングなのです。コミュニティ・ファシリテーターであるためには、自分の燃えてしまう薪を燃やし尽くし、炎の中でもたち続けられるよう準備し続けることです。